ホタルは、蓮の葉の下で眠っている。

妻と、毎年ホタルの出る時期に行く蓮池がある。
6月後半の夕暮れにもなると、その姿が見れる。
数はいないが、たまに一匹だけポッと光り、闇の中に消えてゆく。
そんな感じの場所だ。
でも、今夕はいない・・・

この蓮池にくると、どうしても芥川龍之介のあの有名な「蜘蛛の糸」を思い浮かべてしまう。

極楽の蓮池を散歩していたお釈迦様が、はるか下にある地獄の血の池から助けてやろうと一人の罪人に情けをかける。
その極悪人には、小さな蜘蛛の命を助けた、たった一つの善行がある。
その男に蜘蛛の糸をたらしてやる。
すると、糸をめがけて他の罪人たちも助けを求めて群がってしまい、
重みで糸は切れ、男はほかの罪人もろともに地獄の池に落ちてゆく。

この一部始終をみていたお釈迦さまは、悲しそうな顔をして蓮池を立ち去るという話だ。

まるで、この世の末路みたいな物語だが・・・

ホタルはそんな光景を蓮の葉のしたで、今日も悲しげな眼差しで見つめているもかもしれない・・・